「文我さん、ネタについてのつぶやき」

    《落語百席プログラムより》

=その1=

『鰻の幇間』

夏の食べ物の代表と言えば「鰻」でしょう。しかし、これは人間の決めたことにすぎない訳で、鰻自身から言えば、誠に心外なことと言えます。ただ、人間にとって、鰻の気持ちを無視してでも食べたい、美味しいものに違い有りません。鰻が出てくるネタは「うなぎや」「月宮殿」「淀川」など、数多くあります。さすがに万葉の時代から、日本でよく食べられていたものだけのことはあると思います。夏の食べ物と言えば「すいか」も思い浮かびますが、これは不思議に落語と縁が薄く、すいかを食べているシーンの出てくるネタは殆どありませんし、すいかという言葉がでてくるネタも「船弁慶」「遊山船」くらいです。おそらく、この理由は明治以降に「すいか」が広がったためで、古典落語が沢山創られた時期に、今一歩間に合わなかったためでしょう。夏の食文化の代表である「鰻」と「すいか」の、落語に係わっている度合いの違いは、歴史的なものである―――――と、言いきるのは無謀なことでしょうか?

『莨の火』

このネタの主人公である「食佐太郎(めしさたろう)」は代々続いた和泉の国は、佐野の豪商です。後に「食」が「食野」にかわりましたが、大家には違いありません。私は以前に、ある方のご紹介で「食野」の家の方にお目にかかりましたが、私がこの『莨の火』を演ることを大変喜んでくださいました。豪商の雰囲気は出しにくいにせよ、一時だけでもそれらしい「食佐太郎」を、舞台に現出できれば幸せです。

『花筏』

別名を『提灯屋相撲』と言い、その名の通り、提灯屋のオジさん大活躍の巻です。ただ、大活躍と言っても、自身を持っての大活躍とは言いにくく、瓢箪から駒といったところが、このネタのおもしろいところです。あえて言えば「人生そううまいこといきまへんでェ、けど、おもろいことで助かることもおまんねん」というところでしょうか。相撲が題材のネタもたくさんありますが、私はこの『花筏』が、作品としては一番よく出来ているネタだと思います。それだけに「名作駄作は演者次第」という言葉が、何やら気になる私です。

文我百席VoL9プログラムより


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