「文我さん、ネタについてのつぶやき」
《落語百席プログラムより》
=その11=
「米揚げ笊」
内弟子のときに、師匠枝雀より口移しで習ったネタです。落ちの部分はその後、これの方が良いと思い、師匠と相談の上、現在のような形で演じております。内弟子終了後「金田寄席」という落語会で、このネタを演じましたが、その折に講談の旭堂小南陵兄から、出番前にビールをすすめられ、先輩のすすめだけに断りきれず飲みましたところ。舞台でネタが堂々巡りになり、誠に失礼な舞台をつとめていまいました。それから先は、どれだけ先輩にすすめられても、舞台前にアルコールを口にすることは有りませんし、たとえその人をしくじっても、お断りするように心がけています。それだけに、少し苦い思い出のあるネタとも言えます。ネタの一つ一つにその思い出が重なっているだけ、噺家という仕事は面白いと改めて思う次第です。
「腕喰い」
現在の林家染丸(当時・染二)兄より習いました。私は染丸兄より「堀川」「小倉船」「尻餅」「たいこ腹」「浮かれの屑より」を教わりました。私にとりましては恩人の1人です。この「腕喰い」はどちらかといえば、気持ちの悪い、変なネタのように思われがちなのですが、実はそうではなく、人情味溢れる、人の繋がりが良く出ている傑作であると思います。ただ、確かに何処でも演れるというネタではなく、やはり、独演会形式の中の、三席の中の一席とするのが、良いように思われます。このネタに近いことは、昔の民話にも有り、やはり、事実談が根底に有るのではないかとも思います。
「八五郎出世」
東京落語からの輸入バージョンです。とにかく、商売人中心の大阪では、落語も武士がテーマのネタは少なく、この系統のネタは東京落語が断然多いのです。しかし、私自身、このようなネタが好きであるということと、大阪の場所を限定せずとも、落語の世界の武家屋敷での出来事としてとらえる方が良いと思い、近年演りだしました。私は今一人っ子ですが、実は妹が1人あり、私が小学校のときに2歳で亡くなりました。今生きていたら30歳近くになっているだけに、このネタを演る度に、亡き妹の事を思い出すのです。
落語百席Vol.19プログラムより