「文我さん、ネタについてのつぶやき」
《落語百席プログラムより》
=その13=
「青菜」
古典落語の中で、夏の代表ネタと言えば、この「青菜」でしょう。暑い夏を表しているということよりも、その中から涼しさを感じるような演出となっています。このネタには植木屋の心意気や、大家の旦那の気遣い、そして、夫婦の仲の良さなど、様々な人間模様が組み込まれており、落語の中の名作と言っても過言ではありません。そういえば、先代(三代目)桂文我の十八番でもありました。晩年、大阪四つ橋の厚生年金会館での「NHK上方落語の会」で、先代がこのネタを演じたときは、本当に良いできで、会場大爆笑となり、楽屋に戻って来られてからも、機嫌良くして居られたのを思い出します。とにかく、上手く演じれば、こんなに面白く、快いネタはないと思います。さて、本日は如何なることになりますやら・・・・・。
「深山がくれ」
誠に不思議な内容のネタです。誰がどんな目的で、このネタを拵えあげたものか、その意図がさっぱりわかりません。しかし、とても興味をひくネタであることは事実で、このネタのファンは意外と多いのです。お囃子だくさんで、賑やかではありますが、その根底には不気味さと、バカバカしさが渾然一体となっている、何とも言いにくい、とにかく、黙っていっぺん聞いとおくなはれ、と言いたいネタなのです。むかしは、この話をする噺家は出世しないと言われていたそうです。私はこんな言い伝えに逆らうことが大好きで、ならば演じてみようではないか、と思い立って現在も時折、舞台にかけている次第です。結論は後十年先くらいに出るのではないでしょうか。さて、吉と出るか、凶と出るか!
「佐野山」
相撲ブームに、少しだけかげりがみえてきたとはいえ、まだまだ人気抜群のスポーツであることは間違いありません。歴代の名力士の数ある中で、ことに有名なのが、横綱・谷風です。講談になり、浪曲になりと、いろんな芸能のネタになっている、この名横綱。今宵は落語でそのエピソードを聞いていただきましょう。相撲関係のネタは「花筏」「大安売り」「半分垢」など、たくさんありますが、この「佐野山」はその中でも、かなり良いネタの一つだと思っています。
落語百席Vol.21プログラムより