「文我さん、ネタについてのつぶやき」

    《落語百席プログラムより》

=その14=

「始末の極意」

このネタは、先代(3代目)桂文我の十八番ネタでした。とにかく、倹約がテーマのこのネタを、欲のない飄々とした雰囲気で演じるその舞台は、本当に爽快であり、芸自体も「上手さ」が溢れていたと思います。個性の強い芸風ではなかっただけに、このネタは正に打って付けだったのかも知れません。先代桂文我と言えば、このネタを思い浮かべる方が多いようで、私も何人もの人に「あぁ、文我さんと言えば、あの倹約のネタを面白く演る人ですな」と言われて、その度毎に「いえ、確かに私も演りますが、お聞きになったのは、恐らく先代のモノで、それは見事なモノでした」と、お答えしています。私は内弟子時代に師匠(枝雀)から習いまして、その意味でも大事なネタの一つなのです。

「三枚起請」

今から20年以上前に、橘ノ円都という師匠が居られました。90歳の長寿で、松鶴・米朝師をはじめとして、その当時の若手にまで、沢山のネタを提供された、上方落語界の功労者でした。私はこの師匠の高座を拝見したことは無く、レコードのみでしか知りません。さて、私の師匠(枝雀)が円都師に最後に稽古をつけていただいた人らしいのです。すでに癌に冒された身体でありながら、当時の小米(昭和48年に枝雀を襲名)の前で、この「三枚起請」を演じられたと聞いております。私は師匠(枝雀)の「三枚起請」は、実際の舞台では拝見したことが有りませんが、師匠にとって、この「三枚起請」は思い出深いネタであることは間違いありません。そう思いますと、私にとっても、意義深いネタなのです。

「芝居風呂」

このネタは、東京落語の重鎮でした、6代目・三遊亭円生、8代目・林家正蔵師の持ちネタでした。しかし、あまりにも昔の風呂屋の、今では判らない描写が沢山出てくるだけに、どうも私達には難しすぎました。そこでアイデアだけをいただいて、再構成したのが、この文我版「芝居風呂」です。やはり昔のものの方が良いとおっしゃる方もありましょうが、文我版は文我版で面白いのではないか、と思っています。テープ・CDの第1集にも入れていますので、そちらもよろしくお聞きの程を。

落語百席Vol.22プログラムより

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