「文我さん、ネタについてのつぶやき」

    《落語百席プログラムより》

=その16=

「ふぐ鍋」

林家染丸兄から習いました。林家のお家芸と言えるネタで、先代染丸師のテープを聞かせていただいても、さすがに林家の香りがプンプンで、コッテリとした演出となっています。私は多少このネタはアッサリ目に演じるように心掛けています。あまり、押し気味に演じてしまうと、どうも自分らしくなくなっていくように思いますし、押せ押せの演出が、このネタの自分には相応しく無いと思えるからです。しかし、このネタの主眼が、人の心のやり取りの細かさだけに、そこの部分はジックリと演じていきたいと、誠に贅沢な意志を以て、このネタを演じています。これからの季節の食べ物だけに、一足早く(もうすでにお食べになっているかも知れませんが)味わっていただくことにいたしましょう。

「応挙の幽霊」

従来からあるネタを、大改装して、構成しなおしたものです。確かにあまり演じられることの無いネタだけに、かなりの落語好きの方でも、実際の舞台でこのネタに出会うことは少ないもので、それだけに少し無理のある内容のネタかも知れません。ただアイデアとしてはかなり面白いと思えますし、それをふるいにかけて構成したつもりなのですが、まだまだ、演じる度ごとに揺れ動いているネタなのです。それだけに、その日その日のネタの仕上がりが楽しみでも有り、さて、今宵の仕上がりはどんなものか、演者の私自身も楽しみなのです。

「ねずみ」

私の持ちネタの中で、オチの痛快さと言うことになると、この「ねずみ」が東の横綱と言えます。元々浪曲ネタだけに、笑いと言うよりは、多少お涙頂戴的なところがあり、幼い頃から、浪曲好きであった私に取りましては、そういうところも好きですし、演じていても自分に同化できるところが多いネタでもあります。左甚五郎が活躍するネタとして、私のネタでは「三井の大黒」「竹の水仙」などがありますが、この「ねずみ」が一番一番上演回数が多いのです。会ったことも無ければ、話したことも無い左甚五郎と言う御仁を、想像の上でその人物像を作り上げてしまう、そして、聞き手のお客様もお好きなように想像していただき、江戸時代のある日にタイムスリップしていただく。これこそ、落語の、いや、話芸の醍醐味であり、主眼では無いでしょうか。尤も上手く演じられての話しですが・・。人情噺ぽいネタではありますが、私はできるだけ軽く、そして、ポイントだけ重く、キッチリとしたネタとして演じていきたいと思っています。おそらく、生涯通して演じ続けるネタなのでしょう。

落語百席Vol.24プログラムより

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