「文我さん、ネタについてのつぶやき」
《落語百席プログラムより》
=その18=
「子ほめ」
落語の中で、東西を通して、上演度の一番高い演目が、この「子ほめ」でしょう。確かにネタの構成もしっかりしていますし、人の気を引きやすいことがテーマになっていて、その上、ギャグ満載ですから、上演回数抜群と言うことも頷けます。しかし、このネタが小学校の教科書に採用されたときばかりは首をひねりました。赤ん坊を褒めにいった経験も、また、ほめられて喜んだこともない小学校の子どもたちに最適のネタとはいえないと思ったからです。大人には受け入れられても、子どもには適しにくい落語というのもあるわけで、ギャグだけで採用したとか思えない教育関係者の落語の選択眼を疑ったものです。しかし、これが一つの要因となり、今現在、全国で開催させていただいております「おやこ寄席」が始まったのも事実です。
「しじみ売り」
上方落語には珍しい人情噺です。そして、ネタに大阪の代表的な行事の一つ「十日戎」を絡めさせてあり、季節感豊かな一編としてあるのです。このネタは2年前からやらせていただくようになりましたが、この2年間で構成から演出まで、かなり変化しました。私は多少笑いは減っても、不自然な部分は取り払いたいと思っていますので、できるだけ自然な状況を設定するようにしてきました。ただ、ネタに要する年齢はどうすることもできないのも事実で、今の年齢で果たしてうまく演じきることができるかという疑問もありますが、今だからこの演じ方になるという見本も、自分ながら作っていくことも肝心かと思っています。とにかく、そのたびごとにかなり変化していくネタが、この「しじみ売り」です。東芝ΕΜΙから発売していますCD・テープの「桂文我上方落語選」(その1)に、初演の音が入っています。本日の舞台と聞き比べていただければ、より幸いです。
「苫ヶ島」
このネタのことを、私は「落語版・ゴジラ対ラドン」と呼んでいます。落語では動物が喋ったり、不思議な生き物がでてきたりもしますが、このネタのようにまことにけったいな演出と、登場する生き物の使い方は、ほかのネタには全くないものといえましょう。桂米朝師にこのネタを初めてみていただきましたとき「舞台で演じるこのネタを、わしは生まれて始めてみた。本で読んだときにけったいなネタやと思うてたが、実際見ると、より一層けったいやな。けど面白いさかいにどんどんやったらええ」との言葉をいただき、それからは数多く演じてきたつもりです。昔の演出から、自分流にかなり直しましたが、本日はうまくいくでしょうか?
落語百席Vol.26プログラムより