「文我さん、ネタについてのつぶやき」

    《落語百席プログラムより》

=その22=

「お玉牛」

春団治師に教わりました。このネタのお稽古をつけていただきましたときに、このネタは手品のような演出がなされていて、それがすべて春団治師の工夫による物と実感させていただいた次第です。とにかくきれいに構成されている上に見た目も美しく、派手で、面白い。それだけに教えていただいた後の、オリジナリティの出し方にかなりの苦労がいるわけで、春団治落語の引力圏から、どのように脱出して、独自のおもしろさを出していくのかは至難の業です。いつになったら、そのようなことができるのでしょうか。しかし、それを心がけながら工夫をしていけば何とかなると思います。かっちりしたお稽古でいただいたネタだけに、それを土台に自分らしい「お玉牛」を作っていくことがご恩に報いることと思っています。

「片袖」

このネタは内弟子を卒業した頃に、速記本で初めて知りました。何ともけったいな筋であり、不気味な要素もあり、その上に浄瑠璃が入るネタと言うことで、かなり難しく、自分には上演不可能と思っていたことを覚えています。その後、浄瑠璃を習ったり、いろんなネタをやっていく内に、構成と演出の仕様によっては、何とかなるネタのように思えてきたのです。そして昨年初めてネタ下ろしをいたしました。ギャグをかなり足したり、演出をかえてみたりと、ネタの手を加えていくと、自分にとって面白いネタのように感じてきました。どちらかといえば、私は不気味な雰囲気のするネタが好きですし、人がやらずに滅んでいるネタを復活させることに燃える性質ですから、このネタは私にとって、格好の演題だったのかもしれません。ただ、勿論現在も試行錯誤を繰り返している段階で、その時々で段取りが全然違ったりもするわけで、本日がどのような仕上がりになり、楽しんでいただけることか、私にとっても未知数なのです。

「蔵丁稚」

子どもの出てくる芝居噺は結構多く、いや、現行の芝居噺で、子どもが全く出てこないネタの方が少ないのかもしれません。その中でポピュラーであり、全体的な上演回数が破格に多いのが、この「蔵丁稚」と言っても間違いありません。今年は忠臣蔵ブームの年だけに、このネタの上演頻度も、例年より高まっていくことと思われます。忠臣蔵四段目を暑かったネタとしてはピカイチの演目で、これから先も未来永劫演じ続けられるネタだと思います。私はこのネタに一番「大阪の夕方」を感じます。蔵の中の暗さと、世間の黄昏時の雰囲気。そこに芝居が絡んでくると言う、背景の想像の仕方により、いろんな色合いで楽しんでいただけるネタといえましょう。

落語百席Vol.30プログラムより

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