「文我さん、ネタについてのつぶやき」

    《落語百席プログラムより》

=その26=

「井戸の茶碗」

元は講釈ネタであり、東京落語ではポピュラーですが、上方落語としては珍品の一つです。落語では珍しく、欲の感じられない人物ばかりが登場するネタで、聞き手の好き嫌いもありましょうが、前編に爽やかさを感じる逸品だと思います。ただ、欲のない人間の集まりだけに、夢物語のようにとらえられても仕方なく「はてなの茶碗」などと比べられると、物語の展開に人間くささを感じにくいかもしれませんが、何も落語は人間くささを追い求めるだけのものではなく、何かしら、聞いていて快く、そんなことがあってもよい、めでたし、めでたし、と言う感じのものが、中にはあってもいいでしょう。私の場合ネタの最初にしか出てきませんが、浪人の娘を上品に、そして、爽やかに演じて、その空気がネタ全体の雰囲気となればよしと思っています。講釈のネタを手がけるようになった最初のネタだけに、それなりの思い入れもあり、今後も大切にしていきたいものの一つと考えています。東京落語の演出としては、紙屑屋連中が相談する部分がありますが、これは主要人物の話の流れから、少し離れてしまいますし、ネタ自体の爽やかさを薄めてしまう様に感じましたので、あえてカットしてあります。ただ、これも演じ方一つでどうにでもなることで、私の場合、合わないと思ったので、あえて入れませんでした。時代劇の中に、コントとドラマを取り混ぜたような、そんなネタが「井戸の茶碗」です。

「質屋蔵」

舞台の実演以前に、書籍などの書いたもので接した落語も沢山ありますが、この「質屋蔵」もそうなのです。小学校の時に、初めて買ってもらった落語の本「桂米朝上方落語選」に、このネタが載っていたのです。さすがに小学生の頃に読んでみても、このネタのおもしろさはさっぱり解りませんでした。何やら、始まりから難しいことばかりで、どちらかと言えば、うっとおしいネタ、と言うイメージだったのです。その後、米朝師のレコードでこのネタを聞いて驚きました。そのころは中学生になっていたと言うこともありますが、それは、それは、面白く、これは是非とも実際に生の舞台を見てみたいと思ったものです。構成がしっかりしていて、ギャグも奇抜でありながら、実に納得できるものが多く、そして、何よりも昔のかび臭さのようなものも、懐かしく感じられる、そんなネタが「質屋蔵」なのでしょう。ただ、演じるについては、なかなか難儀なネタで、昔の落語の分類では、「切りネタ(かなり難しいネタ)」として、東の関脇位に位置しています。時間的に見ても長編であり、言葉数も多いだけに、演じるには大変なネタといえますが、うまく演じられれば、聞き手・演じ手ともに満足のできる名作なのです。

落語百席Vol.34プログラムより

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