「文我さんネタについてのつぶやき」
《落語百席プログラムより》
=その4=
『矢橋船』
このネタは、私にとりましては、かなり思いで深いネタです。何故ならば、桂米朝師に初めて教えていただいたネタだからです。今から十年以上前に、歩いて伊勢詣りをしようと考え、雀三郎・米平・三発・文我(当時雀司)の四人で、大阪から伊勢神宮まで、実際歩いていきました。その時に毎日宿泊地で落後会を催し、必ずその中の一席は、伊勢参りのネタを入れようということになりました。そこで、私は米朝師「矢橋船」を、お稽古していただいたのです。このネタは滅んでいたモノを米朝師匠が復活させたネタで、殆ど米朝師の創作と言って良いものだと思います。作品を汚さないように、しっかりと演じてみたいと思っております。かなり、久し振りに演るのですが・・・
『居残り』
名作映画の一つに数えられる「幕末太陽伝」(日活・川島雄三監督作品。フランキー堺主演)は、このネタが元になっています。そこへ「芝浜」や「品川心中」などを取り入れた、とても楽しい作品に仕上がっています。ここでのフランキー堺は、いかにも明るい主人公を演じ切り、大好評を博しました。私は個人的に、フランキー堺という方が大好きで、後年のテレビドラマ「赤かぶ検事奮戦記」などは、毎週興味深く見せてもらいました。まず、声の明るさはさることながら、一瞬にして声の明暗をつけられるその演技力は、まさに神業とも言えましょう。少しでもフランキー氏の主人公の明るさが、今日の舞台に乗り移れば、これが一番の幸せです。
『猫の忠信』
米朝一門にとっては、四代目桂米団治(米朝師の師匠)から脈々と受け継がれている、大事なネタです。正に滑稽怪異談で、そこには浄瑠璃の「義経千本桜」のパロディが下敷きになっているという、複雑怪奇なネタとも言えましょうか。東京落語では、六代目三遊亭円生、三代目桂三木助の十八番でしたが、上方落語の演出とはいささか異なっています。興味のある方は、一度レコード・CD・テープでお確かめください。
落語百席vol12プログラムより