「文我さんネタについてのつぶやき」

《落語百席プログラムより》

=その6=

『厄払い』

このネタは、立春と新春が、ほぼ一致していたころの噺で、そこで「節分」を「年越し」と呼んでいるわけで、決して間違ってしゃべっているのではありません。そしてこのネタに出てくる「よばし麦」。「よばす」という上方の言葉の意味は「大麦を蒸したり、煮たりしてふやかすこと」だそうです。ただ、水につけておくだけでも「ふやかす」ことはできるので、このネタの場合は、それだと思っていただきますように。私はこのネタは、内弟子が済んですぐに覚えたネタで、その年に淀屋橋の朝日生命ホールでの「桂枝雀独演会」で演らせていただきましたとき、今は亡き「てなもんや三度笠」の作者の香川登枝緒先生に、先人が演じていた工夫をいろいろ教えていただいた思い出があります。香川先生の思い出話しは、また別の折に。

『出歯吉』

ワッハ上方のある千日前が舞台になっているネタは、以外に少ないのです。江戸時代、ミナミに散在していた墓地を千日前に集め、焼場や刑場もここに作ったため、とても陰気で物騒なところだったようです。現在のような賑やかな千日前になったのは、明治になってからのことで、刑場廃止、阿倍野への墓地の移転に伴い、この地に娯楽の場がつくられたのです。落語の名作の原典ができてきた江戸時代においては、この千日前は、明るい噺作りの場には相応しくなかったのでしょう。しかし、この出歯吉には、その場の陰気さを吹き飛ばすだけの面白さがあります。復活ネタのひとつです。

『佐々木裁き』

このネタは、私が中学生のころから覚えていたものです。当時、三重県松坂市立中部中学校で落語研究会をつくっていた私は、このネタが好きで、よく友達の前でも演じていたものです。ただ、私は面白いと思っていても、腕の拙さと、段取りの悪さ、そして、噺の内容のむずかしさもあり、誠に不評でした。しかし、落語研究会の顧問であった鈴木得三郎先生が「このネタは面白い。何度もやってくれ」と言ってくださり、より細かく覚えて、先生の前で喜んで演じていました。ひょっとしたら、この先生の言葉がなかったら、このネタは今も演じていないかもしれません。「豚もおだてりゃ・・・」とはよく言ったもので。

落語百席vol.14プログラムより

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