「文我さんネタについてのつぶやき」
《落語百席プログラムより》
=その7=
『大工裁き』
世の中見回してみれば喧嘩だらけだと思いませんか?また、この世で喧嘩やもめ事がなくなれば、ひょっとしたら味気ないものになっているかもしれません。人間は「トムとジェリー」ではありませんが、「仲よく喧嘩する」ことも肝心なのかも。さて、このネタの喧嘩は一体誰が悪いのでしよう。みんなが正論を述べているのですが、少しずつのボタンのかけ違いが、大きな喧嘩に発展していく例だと思います。私自身、このネタの登場人物を依怙贔屓無く、全員の意見を尊重しながら、その立場と意見をはっきりさせようと思っています。演者の思惑通りに演じきれたら、これほど気持ちの良いネタもないでしょう。因みに東京では「大工調べ」と言い、ポピュラーなネタの一つです。
『百人坊主』
その昔の伊勢参りは、庶民の憧れであり、ひとつのステータスであったことは間違いありません。その道中でのいざこざも多く、それが上方落語の「東の旅」シリーズの原話になっているものも多いのです。この「百人坊主」は東京では「大山詣り」(おおやままいり)と言い、お参りの先も大山です。その演出も落ちも大分違いますが、私は何やらゴチャゴチャしている上方演出の方が好きで、その当時の雰囲気もよく伝えているのではないかと思います。このネタも喧嘩がテーマになっています。「大工裁き」との喧嘩の違いをお楽しみください。
『蛸芝居』
私は三年前の2月25日に、大阪サンケイホールで、四代目桂文我を襲名しましたが、その時に演じたのが、この「蛸芝居」でした。初代桂文我は明治から大正にかけての長い年月、芝居噺でとても売れた人で、その初代にあやかるためにも、襲名披露の一発目は「蛸芝居」でいこうと考えていました。今から思えば、もう少し、余裕をもって演ればよかったと思いますが、とにかく夢中で、どんな思い出演っていたのかも、あまり覚えがありません。その時のビデオが残っていますが、もう少し先で、改めて見てみたいと思っています。その年の国立演芸場での花形演芸大賞を受賞したのも、このネタだけに、私にとりましては、やはり大事なネタなのです。